アベノミクスを背景にここ数年は堅調な日本経済ですが、2016年がスタートし、何となく景気の先行きに不透明感が増していますね。中国経済の減速、原油価格の下落等を背景に株式市場が失速していることが要因なんだと思います。日経平均は昨年末の19,034円から1月21日には16,017円まで下落しています。今回のコラムは、この急激な株式市場の悪化の中で、鑑定士目線でふと気になったこととして、「日経平均、不動産会社株式、J-REITの値動き」を取り上げてみたいと思います。
ここでは不動産会社株式として、日本を代表する大手総合不動産会社である「三井不動産」と「三菱地所」に着目してみます。また、これと対比するJ-REIT銘柄として両不動産会社がそれぞれ主要スポンサーとなっている「日本ビルファンド投資法人」(NBF・三井不動産系)と「ジャパンリアルエステイト投資法人」(JRE・三菱地所系)を採用します。いずれも主な運用資産としてオフィスビルを対象としています。期間は昨年12月30日から、急激な下落が続いた1月21日までとします。日経平均と各銘柄の終値の推移は下表の通りです。
<終値の推移>
日経平均、不動産会社株式の大幅な下落に対し、J-REITは殆ど下落していないことが窺えます。もう少し動きが見えるように12月30日を100としてそれぞれ指数化してみると以下の通りです。
グラフを見ると、日経平均と不動産会社、J-REIT2銘柄で異なる動きを示しているのがよく分かりますね。但し、日経平均がこの間15.8ポイント下落しているのに対し、不動産二社はそれぞれ20.8、18.8ポイントと大きく下落しており、ここにも少し差が見られます。不動産会社株式は金融環境の影響を受けやすく、景気感応度が高いという性質があります。いい時も悪い時も動きが早いということです。日経平均は不動産以外の多様な業種を含むため、不動産会社株式よりマイルドな動きとなります。
さて、J-REITですが、日経平均がここまで大きく下げる中で驚きの数値を示しています。NBFが2.4ポイント、JREが0.2ポイントの下落、殆ど下げていないとも捉えられます。どの様な要因によるものでしょうか。
あらためてJ-REITとは不動産投資信託といって、投資家から資金を集めて収益用不動産に投資する箱であって、投資口に対する配当原資は賃貸事業収益(賃料収入)になります。NBF・JRFともオフィスビルを主な投資対象とするJ-REITの代表銘柄で、保有物件も都心の優良物件が多数含まれています。都心のオフィス市場は緩やかな回復基調にあって、当面は堅調な推移が予想されます。もちろんオフィス賃料は企業収益の影響を受けるので中長期的には景気動向に左右されることになりますが、その動きは緩やかです。以上から、J-REITの配当利回りは相対的に安定的であり、前記の結果に繋がっていると思われます。また、株式の値動きの粗さを嫌った資金がこの局面でJ-REITに流れている可能性もあります。
J-REITには多くの銘柄があり、投資対象もオフィス、商業施設、共同住宅、物流施設、ホテル、ヘルスケア等、様々です。用途ごとに賃料の安定性が異なりますし、スポンサーの信用力等によって配当利回りの水準も異なります。株式市場の変動が大きい局面では、J-REIT銘柄を自分なりに分析して投資してみるのも面白いかもしれませんね(勧誘ではないですよ…)。ちなみにJ-REITの投資対象となっている物件については、不動産鑑定士が半期ごとに鑑定評価を行っており、有価証券報告書や決算短信等に開示されています。